永遠の親友

学園の敷地内にある小高い丘の頂上で、日向絆奈は両膝を抱えて座っていた。
空は透きとおるほどの青空だったが、絆奈の心は厚い雨雲に覆われていた。
今日もいろいろと失敗をしてしまった。朝の礼拝でシスターの話を聞いているとき、大きな派手なくしゃみを四連発してしまった。家庭科の実習で目玉焼きを黒焦げにしてしまった。ダメ押しで掃除の時間に花瓶を割ってしまった。失敗するのはいつものことなのだが、一日で三回というのは自己新記録だった。これにはさすがにへこんでしまう。自分のドジさ加減がたまらなく悲しかった。
「絆奈ちゃん」
不意に背後から掛かった声に反応して、絆奈は座ったまま首だけを後ろに向けた。立っていたのは絆奈のクラスメイトで寮のルームメイトでもある夏目檸檬だった。
「檸檬ちゃん、どうしてここに?」
「なんとなく絆奈ちゃんがここにいるんじゃないかって思ったの。もっとも、ここ以外の場所も結構歩き回ったけどね」
檸檬はそう答えて小さく舌を出した。
「今日ことはあまり気にしないほうがいいよ。なんていうか、ほら、そういうときってあるからさ」
「でも、やっぱりショックだよ。だって、あんなにドジばかりしちゃうんだから。絆奈ってば、なんでこうもドジなんだろ」
絆奈は寂しげな笑みを送ったのち、ふたたび外の景色を眺めた。檸檬の心遣いは素直に嬉しかったが、その反面情けない気持ちにもなった。
檸檬は無言のまま絆奈の隣に腰掛けた。微風がふたりの髪を優しく揺らす。少女たちはしばしの間、眼下に広がる学園を眺めた。
「私はドジな絆奈ちゃんが好きだよ。絆奈ちゃんのドジは一生懸命さの裏返しだと私は思っているから」
先に口を開いたのは檸檬だった。
「うー、それって何かフォローになっていない気がするんだけど」
絆奈は頬を膨らませて軽く睨んだ。
「ご、ごめん、別にそういうつもりで言ったんじゃないの。ドジな絆奈ちゃんだからいいっていうか、ドジと絆奈ちゃんはハンバーガーみたいにセットだというか、絆奈ちゃんのドジする姿こそ最大の魅力というか・・・」
檸檬が焦りながら言葉を紡ぐ。
その様子があまりにも可笑しかったので、絆奈は吹き出してしまった。
「ありがとう。檸檬ちゃんの言いたいことは、なんとなく分かったから大丈夫だよ」
「ごめんね、うまくいえなくて」
すまなさそうに謝る。
「ううん、こっちこそありがとね。そう言ってくれるのは檸檬ちゃんだけだよ。だから、絆奈も檸檬ちゃんのことが大好きだよ」
絆奈の顔から自然と笑みがこぼれた。忘れていた笑顔が戻った瞬間だった。
心が淡い温かさに包まれる。絆奈は、こんな気持ちにしてくれる素晴らしい親友がそばにいることに感謝した。檸檬のことは永遠に親友同士でいられると思えた。それは自分の思い込みではないと信じて疑わなかった。そう思わせる何かを感じたからだ。
「絆奈ちゃん、そろそろ寮に戻ろう」
檸檬は立ち上がってスカートのしわを整えると、絆奈に向かって手を差し出した。
絆奈はその手をつかんで弾むように立ち上がった直後、地面に足をとられてバランスを崩した。
「ふええっ」
絆奈は情けない声を上げながら、無意識のうちに檸檬のほうに倒れこんだ
「きゃっ」
あおりをくらった檸檬は、そのまま絆奈に押し倒されるような格好で転倒した。
その刹那、親友の名前と同じ果物の香りとともに少女特有の感触が絆奈の頬と左手に伝わった。そして、同時に絆奈の左胸に檸檬の右手を感じた。
「あ・・・」
絆奈はそのままの姿勢で固まった。下にいた檸檬も同様に動かなくなった。瞬時にふたりの顔が朱色に染まった。
「ご、ごめん、檸檬ちゃん、大丈夫?怪我してない?」
「うん、私は大丈夫。それより絆奈ちゃんこそ平気?」
「絆奈も大丈夫だよ」
「よかった」
絆奈と檸檬は互いの無事を確認したのち慌てて離れると、両膝をついた姿勢で座り込んで顔をうつむかせた。
くすぐったい空気が辺りに流れ、絆奈の胸がドキドキして全身が熱くなる。特に頬と左手と左胸がものすごく熱くなっていた。
絆奈はおずおずと顔を上げた。すると、恥じらいを目一杯出している檸檬と目が合った。さらにドキドキが激しくなった。
───あうー、檸檬ちゃんの顔がまともに見られないよお。
本能的に絆奈の視線が下がった。
「絆奈ちゃん、ここで少し風に当たって行かない?」
「う、うん、そうだね」
檸檬の提案に絆奈は首を大きく縦に振った。
青から茜色へと変わった空の下、純粋無垢なふたりの乙女は、肩を並べて静かで優しい時間を過ごした。


あとがき




DC2のSSばかり書いていましたので、リフレッシュという意味で久方ぶりにストパニのSSを書きました。ちなみに今回もRiaさんから頂いたイラスト(絆奈&檸檬の分)をイメージしながら書いています。イラストが表現している仲良しさをアピールしようっていうことでテーマを絞り、当初は田中理恵さんが歌っている「永遠の親友」のイメージに沿った内容をと思っていたのですが、まったく違う方向になってしまったのはここだけのはなしです(マテ
タイトルとテーマはそのままですが、イメージは微妙にずれています。まあ、ここはテーマがあっていればよしということで自分自身を妥協しました(^^;

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