海の神様の贈り物

どこまでも続くコバルトブルーの海に見守られながら、私は憧れの方と一緒に真白な砂浜を歩いていました。
「光莉、疲れていないか?」
私の隣を歩いていた憧れの方が声をかけてきました。
この方の名前は鳳天音様といい、私が通う聖スピカ女学院の5年生で、全生徒から圧倒的な人気を誇る方です。その知名度の高さは、本校はもちろんのこと、他校の生徒まで及んでいます。
背は高くて、凛々しくて、勇気や決断力があって、それでいて優しくて・・・とにかくステキな方です。
「だ、大丈夫です・・・」
私は詰まり気味な返事をしてしまいました。
天音様とふたりっきりで歩いていると思うと、どうしても緊張してしまいます。天音様と出会ってから、それなりの月日は経っているのですが、これだけは未だに治りません。そんな自分がちょっと悲しかったりします。私にもっと勇気があれば・・・そう思わずにはいられません。
「そこの木陰で少し休もう」
天音様は近くにある木々が生い茂る場所を指差しました。どうやら、緊張していた私を疲れていると勘違いされたみたいです。
私は慌てて答えました。
「あの、天音様、私なら平気ですから・・・」
「無理しなくていい。今日はまだ始まったばかりだから」
天音様は優雅な笑顔を浮かべると、私の手を取って木陰まで歩きました。
「何か飲み物を買ってくるよ」
「あ、天音様、それなら私が・・・」
「光莉はそこで大人しく待っていてくれ」
天音様はそう言うと、立ち上がって駆け出していきました。
ひとりぼっちになった私は、あてもなく空を見上げました。
ベビーブルーの空は、澄んでいてとても綺麗なのですが、何故か寂しい気分になりました。ひとりぼっちになったせいかもしれません。
まだ数分しかたっていないのですが、1時間以上の時の流れを感じました。
───天音様、早く帰ってきてください。
私は心の中で強く願いました。
そのときです。
「おまたせ」
なんと天音様が戻ってきたのです。
天音様は顔から汗をしたたらせながら、肩で激しく息をしていました。
「天音様、もしかして走ってきたのですか?」
「光莉が悪い魔法使いにさらわれてしまったら大変だからね」
天音様は優しく微笑んでくれました。その笑顔を見た瞬間、私は胸と目頭がじーんと熱くなり、涙がこぼれ落ちてしまいました。
「どうしたんだ、光莉?もしかして、私がいないあいだに何かあったのか?」
一瞬にして天音様から笑顔が消えました。
いけない、私ったら天音様を心配させてしまって。私はハンカチを取り出すと、急いで涙を拭いました。
「違うんです。天音様がこんなに私のことを思ってくれているって分かって、それが嬉しくてつい・・・心配かけてしまってごめんなさい」
「そうか。何もなかったのならそれでいいよ」
天音様は安堵のため息をつきました。
私は本当にダメな女の子です。天音様にあんな顔をさせてしまうのですから。自分の弱さが嫌になりました。
「さ、冷たいうちに飲んで」
気を取り直した天音様は私に缶ジュースを差し出してくれました。それはアップルジュースでした。
「ありがとうございます」
私は両手でジュースを受け取りました。
「それともうひとつ光莉に渡したいものがあるんだ」
「え・・・?」
予想外の言葉に私は驚きを隠しきれませんでした。
「さっき砂浜を歩いているとき、偶然見つけたものなんだ」
と言って天音様が取り出したのは2枚の貝殻でした。貝殻は同じ形をしていて、陽光を受けて虹色の輝きを放っていました。
「うわあ、綺麗・・・」
私は息を飲みました。貝殻の美しさに一瞬にして心を奪われてしまいました。
「おそろいの貝殻が一緒に落ちているなんて珍しいよね。これはきっと海の神様が私と光莉のためにプレゼントしてくれたに違いない」
天音様はそう言うと、貝殻のひとつに軽く口づけをして私に渡しました。
「この貝殻と海の神様に誓って、光莉をずっと守るよ」
「天音様・・・」
私は海よりも大きい嬉しさを覚えました。私は世界一、ううん宇宙一幸せな女の子です。幸せすぎて、ふたたび泣きそうになるのを必死にこらえました。ここで泣いてしまったら、また天音様に余計な心配をかけてしまいますから。天音様にあんな顔をさせたくありません。でも、完全に涙を止めることはできませんでした。だから、こぼれないように努力しました。
「あ、あの、天音様。天音様の貝殻を少し貸してくれませんか?」
「ああ、別にいいけど」
天音様は持っていた貝殻を渡しました。
私は感謝と天音様にしか渡せない特別な気持ちを込めて、その貝殻にキスして天音様に差し出しました。
「天音様、私もこの貝殻と海の神様に誓って、ずっと天音様のそばにいます。そして、天音様のことを想い続けます」
自分の言葉に体が燃えるように熱くなり、胸がドキドキしています。
「ありがとう。これは四六時中ずっと肌身離さず持ってるよ」
「私も一生の宝物にします」
「光莉・・・」
「天音様・・・」
私は天音様を見つめました。大好きな天音様の瞳の中に私がいるのが分かります。
瞳の中の私が迫ってきたかと思うと、天音様に抱きしめられました。私は天音様の大きな背中に両腕を回し、抱き返しました。
夢心地の気分になり、胸のドキドキがさらに速くなりました。
───天音様、私は天音様のことが好きです。
潮風が輪曲舞を舞う中、私たちはずっとずっと抱き合い続けました。




あとがき


久しぶりのストロベリー・パニックのサイドストーリーですが、いかがだったでしょうか?
今回の作品はRiaさんから頂いたイラストをもとに書いてみました。夏と海とふたりの純真さが当作品の強調部分になります。そして、Riaさんのイラストが素晴らしいのに対し、こっちのSSは・・・(汗)百合系の作品を書くと、ぎこちなさが残るのは相変わらずで、これがなかなか直らず悶絶しています(オイ
自分がストパニのSSを書くときは、このカプが一番無難にまとまります。王道っぽいのが書きやすい要因だと思います。天音&光莉のカプは王子様とお姫様っていう感じで、これが結構自分的にはツボだったりします。ただ、最近はコミック版で登場している蕾が気になっていたりするのも事実で、まだ書いていないカプを書いてみたいなあとか思う今日この頃です。
この作品の強調点が少しでも伝われば幸いです。

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