乙女たちのLiebe Melodie

そこは古びた書棚だけがある狭い部屋だった。まだ日没まで時間があるにも関わらず、辺りは薄暗い。まるでここだけ時間が止まっているような錯覚すら覚えるほど、内部は寂れていた。それもそのはず、資料室と呼ばれているこの部屋は、本当に過去の資料とおぼしき書類だけが置かれているからである。資料といっても、それが活用された形跡はまったく見当たらない。ただ単に飾られているだけだ。そんな状態なので、人が訪れることはないはずなのだが、今日は珍しく人の気配があった。
来訪者の数はふたり。ひとりはおっとりとした感じの金色の長髪の少女、もうひとりは栗色の長髪に、きつめの顔つきをした少女だった。
金色の髪の少女の名は春野光莉、栗色の髪の少女の名は南都夜々という。ともにここ聖スピカ女学院の3年生である。
「急にこんなところに連れ出してごめんなさい。どうしてもふたりっきりで話したいことがあったから」
夜々は部屋の一番奥に進んだところで立ち止まると、回れ右をして光莉のほうに体を向けた。
「ううん、それより話って何?」
「うん、あのね・・・」
途中で大きく深呼吸をひとつして少し間を取る。
「私、光莉ちゃんのことが好きなの!」
「え・・・」
突然の告白に驚愕する光莉。さらに夜々の告白は続いた。
「好きといっても友達としてじゃないわ。なんていえばいいかしら・・・そう、恋、私は光莉ちゃんに恋をしているの。女の子同士で変なことは分かっているけど、自分の気持ちを抑えることができないの!」
彼女の真剣なまなざしに射抜かれて、光莉の体が石像と化す。何か言わなければと思ってはいるのだが、返す言葉が見当たらない。まさか同じ女の子から告白されるとは誰が予想できようか。
「光莉ちゃん」
夜々は一歩前に進み出ると、左手で光莉の右腕をつかみ、自分の左胸に押し当てた。ふくよかな感触のあとにかすかな振動が手のひらに伝わる。
「あ・・・」
意表をつく行為に、光莉は思わず驚きの声を上げた。
───夜々ちゃんの胸って意外と・・・
ついそんなことを考えてしまう。同じ女の子としては、やはり同年代の少女のバストサイズが気になるものなのだ。
「これが私の今の気持ちよ。ほら、胸がドキドキしているのが分かるでしょ。光莉ちゃんの姿を見るたびに、いつもこんなふうになるの」
夜々の胸の高鳴りが激しさを増した。
光莉は顔を朱色に染めながらうつむいた。右手を通じて感じるクラスメイトの胸の鼓動が連鎖反応を引き起こす。
夜々は空いているもう片方の手で、光莉の左胸にそっと触れた。
光莉はかすかな吐息をもらして、体を小さく震わせた。たちまち微熱が全身に広がる。
「よかった、光莉ちゃんも私と同じ気持ちになってくれて。あ、またドキドキが大きくなった。ウフフ、やっぱり光莉ちゃんは可愛いわね。私はそんな光莉ちゃんが大好きよ」
夜々が小さく笑う。告白して余裕が出てきたのか、こちらの様子をしっかりとうかがっている。すっかりいつもの強気な彼女に戻っていた。
対照的に光莉は完全に我を失っていた。困惑という嵐の渦中の心が投げ出され、頭の中が真っ白になる。もう何をどうすればいいのか分からなかった。
「ねえ、光莉ちゃん。私を見て」
夜々にうながされて、光莉は恐る恐る顔を上げた。激しさと気位の高さを秘めた黒い瞳に、光莉の心と視線が吸い寄せられる。夜々の瞳はいい意味で妖しくて魅力的だった。
「私の瞳の中に光莉ちゃんがいる。私だけの光莉ちゃんが。そして、光莉ちゃんの瞳の中に私がいる。光莉ちゃんしか知らない私が。今ここにいるのは私たちふたりだけ・・・そう、ここは私たちふたりだけの世界。誰も私たちを邪魔することはできない。ねえ、光莉ちゃん、私の顔をよく見て。そして、寝ても覚めても私のことを忘れないようになって」
夜々は互いの唇が触れてしまいそうになるくらい顔を近づけた。甘くて熱い吐息を頬に受けた瞬間、光莉の胸の動悸が激しさを増した。また、それに呼応するかのように彼女の右手に伝わる振動も大きくなった。
───夜々ちゃんも私と同じくらいドキドキしているんだ。
そう考えると、ほんの少しだけ落ち着くことができた。重なり合った心臓の音は、まるで恋人同士になる前の前奏曲だった。女の子同士で演奏する心の音楽は、斬新で華があった。
夜々の思いはすごく恥ずかしかったが、同じくらい嬉しくもあった。もっとも、今は恥ずかしさのほうが先行していて、気持ちの整理をつけることができなかったが。
「夜々ちゃん、私は・・・私は・・・」
光莉はかろうじて顔をうつむかせると、うわ言のようにつぶやいた。やはりあとに続く言葉は出てこなかった。
「無理して答えなくていいわ。今日は私の気持ちを心に刻んでおいてくれればいいから」
そんな光莉の心境を汲み取るかのように、夜々は体を密着させながら耳もとでささやいた。強引な姿勢とは裏腹に、彼女の言葉は優しくて心地よかった。その何気ない心配りが嬉しかった。
「・・・うん・・・」
光莉は、不可思議な安らぎを感じながら小さくうなずいた。




あとがき


思い立ったが吉日ということで、久方ぶりにストバニの2次小説を書いてみました。本当は当初、光莉ちゃん×天音ちゃんのカプで予定していたのですが、同人誌のほうで書いてしまったので、こっちは光莉ちゃん×夜々ちゃんでいきました。
最初、このカプでストーリーを作るべく、いろいろと想像(妄想?)したとき、知らず知らずのうちに18歳以上の年齢対象作品になってしまったというのは、ここだけの話です(汗)
だって、夜々ちゃんの性格を考えると、ついあんなことやこんなこと(内容についてはサイトの特性上自主規制(爆))が必然と浮かんでくるんですよね。わびしい男の悲しい本能ってやつですね。こういうことを考えている時点で、あまり性格的にはよくないかもしれませんね。健全かどうかはさておき、私もれっきとした男だということです(^^;
女の子メインの話というのは、自分にとって未知の要素が多いため、書きづらいのは否めませんが、いろいろと想像力を働かせることができるので、そこは新味があって楽しいですね。ストバニのほうもなんか活気が出てきたような感がありますので、こちらも頑張ってみようかと思います。

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